「雪の皮膜で壅蔽された樹木の硬骨な芳香によく似てる」
「雪の匂いは大気中の匂いを取り込んだものだと思うけど」
「君は良い味をしているのに倫理的で詰まらない。喋るな」
「何だか酷く面倒くさいね黙らせたいのなら頭ごと食べたら」
「きになるけれどそれだと二度と匂いが食べられない困る」
鳥の骨格を煮込んで芳醇な出汁が精製される様に、ぼくはグズグズの思考を継続するたびに芳香を放つらしい。腐敗する生命体は美味。金属質の先割れスプーンでぼくの鎖骨を剔る。呆気無く剥落した鱗のタイルを舌先ですくって咀嚼する。 口腔にぼくの破片がおちるたびに心音がひとつ減っていく気がする。
「詰る所ジーンの命令で栄養素を識別するんだよ、ぼくは」
「良い匂い?それ近親相姦を防ぐメカニズムの真逆だとか」
「そうだね、遠いほうが美味しい、それで冬の匂いは目印」
「わかりやすい目印ってこと、たしか君は夏生まれだっけ」
「そう。遠い遺伝子を摂取して結合させて新しい生き物に」
口腔にぼくの破片がおちるたびに心音がひとつ減っていく気がする。だが然し一度に食べてしまうようなことはしない。端っこから。隅っこから。ナイフで丁寧に切り分ける。そういえば君はぼくと真逆の几帳面だった。 口腔にぼくの破片がおちるたびに心音がひとつ減っていく気がする。早く臓器が一つになれ。

におい
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