海岸に堆積している屍体の砂礫を嚥下すると磨耗した寿命を補給出来るのだ、とは初等教育で習う事項である。彼等は元々ジクソーパズルのように体のあちこちが取れていて、他人を縫合し無機物を結合し挙げ句の果てには腹部にできた空洞を気にせず歩っている。 最初からである、と彼等は認識しているし、ひとつならくっつくべきだ党が主力の僕らなので、こぼれている腕の砂を飲んで窒息死する彼が絶えない。誰かの記憶が始まる頃から継ぎ接ぎだらけだった。誰かとは。誰かとは。
「死にそうだから砂を飲もう」「また?」「さっきあの子にぶつかったから崩れちゃって」「気を付けないと落としちゃうよ」
話しながらも、踵から砂がゴトゴトと欠けて行くので彼が舐めている。足から僕が彼になり、或いは彼女である。そのため勿論今ぼくの欠けた左頭蓋の補完に彼の眼球を咀嚼しても良いのだか、どっちにしろ僕も彼も君である。なので僕は努力を彼女だったころから放棄している。ゴトゴト、循環器が不足し出す。
「何がいいかな」「砂?」「うん」「曹達水に蜂蜜を大匙3、青砂を0.8人分、薄荷を一滴」「涼しそう」「暑いでしょ?」「そう?」「そう」「美味しかったよ」「知ってた」
億光年の苦痛に揉まれ皮膚から欠損していき思考を結合を個体を放棄したのがあの砂海なのだと言ったのは僕に誰かが少し混じった頃だった。誰かとは。誰かとは。 街路樹が灰色でありそこも少しづつ欠損していく、交差点に這いつくばって崩れた半砂粒状の個体であった僕を食べないといけないのだと思う。さもなくば僕が僕でなくなるのだ。彼も、彼女も、君も僕も、須らく僕であった。だいぶ前の誰かの頃。 砂浜の僕を飲み尽くした頃に僕は鉱石に戻るのだろうか、とは恐らく隣で気候の話をする彼も考えているだろう。だってもともとひとつの僕だったのだから。 だけど、またひとつの鉱石に戻ってもどうなるんだろうね、と、僕が好きだった君曰く。
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