幇間を嬲る快楽とは既に支配者として生を受けたときより始まった感情、数多あるその一つに過ぎない。 自意識過剰ともいえる自負を他者は天稟より派生せし傲慢だと嘲笑するか、奢靡の泥濘に埋れた愚昧な人間だと指差して哄笑するか? ……どちらにせよ、この心中に重力を持って沈殿するのは紛れも無く愉悦である。毒を孕んだ甘美なる、愉悦。それは幼子が蝶の羽をもぎ取って鱗粉を頬に付けながら微笑するその心境にも似た、無垢たる所業。悪魔より深淵な、羊飼いの手に携えたナイフは垂涎し、殺戮に唇は富む。 血塗れの神の子らよ、囁く吐息を誰に求めようと所詮は連鎖の鼬を模倣するばかりだと呟く、怜悧な者は異教徒として処女の抱擁を迎えるだけ。たおやかな腕が逃さぬように抱き付いて、百千の毒針が愛撫するだけ。 連鎖の鎖を腐食へ誘発する方法なんて全てが全て同一へと化せばそれで終着ではないかと問うた彼女の声は正論である筈だけれどそれを信託するのは彼であり、彼がそれを許容しなかったから。 主こそ絶対だと妄信する蛆虫は、主が異端へ変貌したらどうするか。要らぬ神など不要のものと灰燼へ化す手つきの無垢たる白さといったら!慈母は、何時からナイフを携えたか。何の目的で?
(ぼくたちはかみさまではないからしらない)
バンバンバンバンバンバン、タイプライターの連打音に似た軽々しい音に肢体が痙攣して鼓舞を魅せる。水中から酸素という毒ガス室へ投擲された熱帯魚のように、ネオンを散らして踊り狂う。
ぼくは白皙を足で甚振りながら鳥瞰を決め込んだ。ゲホ、と名前すら知らない誰かの唇からぼとりと血液が落ちて床を染め上げる。朱殷を指先に取って鋭利に微笑する。
「なんだかわりとつまらないね」
貧弱なお人形で、彼は幾度か散弾を浴びさせて遊んでいたが何時しか子供が厭きるように、彼もまた拳銃を放り投げて。空薬莢を蹴散らして書類に没頭し始めた。カリカリカリ、ペンが踊る紙の中。彼の理想は崩落して逝くだけ。去れど悲しむ事はないのです。愉悦は彼が羊である以上、幾らでも妄信すればいいだけだから。
(生産が罪か、妄信が罪か、)
その席は王様のもの
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